もうすっかりと暗くなって、ひとつ、またひとつと家々の灯りも消えていく。
空には満天の星…というわけにはいかないが、ぽつぽつと小さな光がちりばめられていた。
時計の針はもうすぐ12の文字盤をさし、日付が変わろうとしている。

 

君の声、僕の声

 

月曜に提出のプリントを、金曜である今日、早々に終わらせてしまい、多少手持ち無沙汰であった渋沢はぼんやりと窓の外を見ていた。
どちらかといえば計画的に行動する渋沢は、出されたものはその日のうちに、という習慣があった。
小さい頃から親に言われ続けていたのもあっただろうが、こんなところに人の性格はにじみ出ているのかもしれない。
同室の三上といえば、いつものようにパソコンをしている。
先ほど渋沢のやっていたプリントを見て、もうやってんのか、と感心し、
「後で見せろよ」
という言葉もしっかりと忘れなかった。
ああ、三上らしいなと渋沢は思いつつ、それでもきっと見せてしまうだろう自分を想像し苦笑してしまった。

三上はどうやら、チャットをしているらしく、カタカタという音があまり休むまもなく続いている。
今夜は長期戦らしい。先ほど声をかけたが、一瞥をくれただけで、返事は返ってこなかった。
明日は紅白戦をやることを覚えているのだろうか。
とはいっても、自分も何をするわけでもなく、こうやってだらだらと過ごしているのだから、他人のことを言えた義理ではないのだが。

時々、妙に目が冴えてしまうときが渋沢にはあった。
寝ようと思っていても寝付けないのだ。それがたとえ三上がパソコンをしていなくてもきっと同じだろうと思う。
しかし、明日はなんといっても紅白戦だ。キャプテンの自分が寝不足、というわけにはいかないだろう。
必死で頑張っているサッカー部の負担だけには、絶対になりたくなかった。
仕方がないので、以前に買った本の続きでも読むことにした。
何もしないよりも、何かしていた方が効率が良いと考えたからだ。
そういえばここのところ忙しくてしばらくこの本を読んでいなかったな、と渋沢は思った。
ここで、時間の有効活用が出来た、と少しでも嬉しくなってしまうのは、やはり渋沢の正確ゆえか。
いつでも寝れるように、ベッドに腰掛けると普段はほとんどかけない眼鏡をしてぺらり、とページを捲った。



しかし、渋沢の読書タイムは、ものの数分で中断されることになる。
渋沢の携帯電話が鳴り始めたからだ。
いつもならこんな時間は、他の人にも迷惑がかかるのでマナーモードに設定しているのだが、今日に限ってどうやら忘れていたらしい。
突然の音に、びくりと肩を揺らすと、急いでその電話をとった。
おそらく睨まれているだろう、三上の視線が背中に突き刺さるようで痛い。
そう、いつもならこんな時間の電話を取ることなんて滅多にないのだ。


しかし、こんな時間の電話をとることで、いいこともある。


「もしもし?」
ディスプレイには番号しか表示されてなかったので、心持ち問いかけた。
『…』
が、電話の向こうは何も答えない。悪戯かと思って電源を切ろうとしたその時
『…渋沢か?』
という声が聞こえた。

この声は、もしかしなくても、彼ではないだろうか。
自分が彼の声を間違えるはずがない。妙な自身が渋沢にはあった。

「不破?」

自身がある、割には恐る恐る聞いてみる。と、
『ああ』
という馴染み深い声が返ってきた。

やはり、いいことはある。

『…電話してはまずかったか』
何も答えない渋沢に、不破は心なしか伺うような声色で訊ねる。
それを慌てて否定した渋沢は、三上が確かにこちらを向くのを見た。

ふと、なぜ不破からの電話なのにディスプレイに名前が表示されなかったのだろうか、と考えてみた。
そういえば不破の電話番号を知らなかったことに多少驚いた。
なぜそんなことに気がつかなかったのだろうか。
その疑問に答えるかのように
『お前から携帯の番号を聞いたのはいいが、一度もかけたことがなかったからな』
ちょうど良いタイミングで不破がいう。
その言葉で数ヶ月前のことを思い出した。
もっといろいろなことが知りたいという彼に携帯番号とメールアドレスを書いた紙を差し出したのが始まりだったと思う。
正直、本当に連絡をくれるかどうか心配だったが、メールは思ったより早く返ってきたように思われる。

「そうだったね」

だから、電話してきれくれたことが嬉しくて微笑みながら(不破には見えないので残念だが)渋沢が相槌を打つ。
「で、今日はどうしたんだい」
きっと、また聞きたいことでもできたのだろうと、たずねると不破にしては珍しく、言い渋った声が返ってきた。

『…怒らないか』
「どうして、俺が怒る必要があるんだ?」
『その、聞きたいことは別にないのだが』
「もしかして、俺と話がしたかったとか?」
『うむ、それもある、が』

少しからかってみようと冗談半分で問いかけると、思っていたよりもあっさりと不破は言った。
嬉しさ半分、驚き半分。
まさか不破がこんなことを言うとは思っていなかったからだ。
自惚れてもいいかな、なんて渋沢が考えていると、不破はさらにすごいことを言い出した。


『なんとなく、渋沢の声が聞きたかった』


渋沢の思考能力は、そこで一気に吹き飛んだ。


そういえばメールのやり取りは頻繁にしていたが、ここ最近は会ってなかったなと、どこか遠くで考える自分がいる。
分かったのはそれだけだった。
とにかく、顔が徐々に赤くなっていくのは止められない。



それからなにを話したか、渋沢はほとんど覚えていなかった。
きっと、取り留めのない会話だっただろうけど、楽しかったことは覚えている。
しかしどさくさに紛れて、日曜日に会う約束まで取り付けてしまったのだから、さすが渋沢といったところだろうか。

おやすみ、と言って電話を切った渋沢は、しばらく笑っていたかもしれない。
三上は呆れたように、顔がにやけてるぞ、と指摘してきたが、渋沢には聞こえないようだ。
とても、とても幸福な気持ちでいっぱいだった。


不破も同じ気持ちだったということは、渋沢が知ることはない。
だけど、幸せな時間は、確かに共有されたのだ。



心地よい君の声。
お互いきっと、いい夢が見れる。





END


第一弾は渋不破です。
べたな電話話ですが、一番最初に思いついたものです。
ほのかに出来上がってる2人。ラブラブですか(笑)
トワイライト企画、最後まで付き合っていただければ幸いですv


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