●除夜の鐘が鳴るころに 後編●

「藤村…」
「んー?」
「大丈夫なのか、忙しかったのだろう?」
彼に抱きしめられたままの格好で不破は尋ねた。
元々、一緒に過ごせないと言っていたのだ、なぜ彼はここにいるのだろう、感じていた疑問をぶつけた。
「不破はそんなん気にせーへんでええよ」
ぽんぽんと背中を叩きながら言う藤村に当然不破は納得できるはずもなく、それまで甘受していた藤村の大きな胸板を押しのけた。
「ふ、不破?」
「お前はいつもそうやってはぐらかす。俺はわからない事があると嫌なのはお前も知っているだろう?…お前は京都にいるのではなかったのか。このままここにいていいのか?答えろ!」
珍しく憤慨する不破に驚きつつ、じぃっとこちらを見つめてくる不破に耐え切れなかったのか、藤村は軽く息を吐くと、こう言った。
「…明日の昼にはあっちに戻る」
静かにそう言った藤村に納得したのか、不破はそうか、とだけ言った。
ただ、その表情は少なからず寂しそうに見えるのは気のせいだろうか。

聞くところによると、京都から東京までを走る新幹線の最終のものに乗ってやってきたそうだ。
よく席が空いていたな、と不破が聞くと一応買っておいた、らしい。もしかしたら、時間が空くかもしれないからと。
しかし、そう都合よく時間が取れるはずもなく、あっちでやるはずだった年越しと新年の行事をすっぽかしてきたと藤村は言った。

「いいのか?お前の家はしきたりを大事にするところなのだろう?」
きっと、こっぴどく怒られるであろう藤村を心配し、不破は言った。
親子仲はそんなによくなかったのではないのか。これがきっかけでますます険悪になるのではないかと危惧した。
「ええよ、不破に会えて祝えたから、それでええ」
しかし、不破の不安を取り払うかのごとく、藤村ははっきりと言った。
そして、まだ納得のいかない顔をしている不破に
「おめでとう」
と笑いながら再度言った。藤村のそんな顔をみて、不破は俯くとそれっきり黙ってしまった。

「不破?」
いつまでたっても顔を上げない不破を不思議に思ったのか、藤村は声をかける。すると小さな声で
「…ありが、とう」
と返ってきた。長い前髪に隠れて不破の表情は見えないが、きっと赤くなっているだろうと藤村は思った。
本当は藤村の負担になりたくない、迷惑はかけたくない。そう思っているのに、藤村の言葉を聞いて、喜んでいる自分がいる。
あの時納得していたはずなのに、いざ藤村が会いに来てくれてこうやって隣にいることに、安堵を感じている自分がいる。
そして、明日の昼までしか一緒に過ごせない寂しさに、戸惑っている自分がいる。
そんな葛藤が不破の心のうちで繰り広げられ、悩んだ末に出てきた言葉が、ありがとう、だった。
それほどまで自分に会いに来てくれたことが、嬉しかった。




「ああーー!!」
先ほどまで、ぼーっと座っていたのだが、ふと腕時計を確認した藤村が慌てて急に叫びだしたので、藤村の頭を失礼だとは思いながら心配しつつ、とりあえずどうした、と尋ねた。
「どないしよう!?もう年明けてんで!」
自分も見てみようと不破が藤村の腕をみるとなるほど、3分ほど前に新年は何事もなく迎えられたようだ。
しかし、それがそんなに大事なことなのだろうか、そう藤村に聞くと、不破の誕生日が一番に祝えなかったから、せめてあけましておめでとうぐらいは1月1日がやってきてすぐに不破に伝えたかった、らしい。
俺のアホ…と誰にともなくつぶやき、目に見えて落ち込んでいる藤村に苦笑しつつ、あけましておめでとう、と言うと不破の方からキスをした。
藤村の機嫌を直すには、こういうことをすると効果的だということはすでに不破はわかっていた。だからこういう行為に及んだのだった。
いきなりのことでやはり驚いていた藤村だったが、それが終わるととても嬉しそうな顔をして、あけましておめでとうと不破に返した。
「なんか今年初めてのちゅーが不破からってええなぁ」
などと言っていたが、不破は大して気にした様子もなく、そうか?と首をかしげた。
藤村はまた笑うと、今度は俺から、と言って不破の左頬に手を添えた。
今年もよろしくな、とキスする前に小さく付け加えて。


きっと今年も藤村と過ごし、そしてもっと彼を好きになっていくのだろう。
今年2回目のキスを受けながら、不破はそう感じていた。



A HAPPY HAPPY NEW YEAR!



END

 
ということで誕生日おめでとう!シゲ不破バージョンも無事書くことができてよかったですv(渋不破は不破生誕祭のほう)
このお話は不破誕と正月を兼ねてます。なんとせこいんだ…!おそらく来年もそんな感じになるだろう、と思います。

またもや不完全燃焼ですが、もう気にしないようにしました(してよ)
今年もどうか、こんなシゲ不破と「MFM」と雪ノ下をよろしくお願いします。

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