●20:月光● |
頼りになるのは、あの月の光だけ。 深く生い茂った森の中、覚束ない足取りで道無き道を行く。 もうどのくらい歩いただろうか。時間の感覚すら失った。 ただはっきりしているのは、今が夜だということぐらいだろうか。 2人とも何もしゃべらない。 ふと、シゲの足に何かが当たった。 木の枝の感触とは明らかに違うそれに、思わず足を止める。 が、数秒後にはそうしてしまった事をひどく後悔した。 そんなシゲに気付いたのか、不破も立ち止まり、下を覗く。 瞬間、不破の目が大きく見開かれ、驚いているのが分かった。 「さと…」 不破が何か言わんとしていたのを、軽く手を上げ止める。 いくら実物を見たことが無くとも、それが何かなんて分かってしまう。 ―骨だ。 「…」 2人とも何も言葉を発しない。 その白い物体は、動物の物なのか、はたまた、この森に迷い込んでしまった者の成れの果てか。(後者ではないかとシゲは思った) どちらにしろ、見ていて気分のよくなるものではない。 「なぁ、このまま出られへんやったら…どないするん?」 なんとなく沈黙が嫌で、そう問うた。 「別にどうもない。…死ぬだけだ」 不破はいつもの調子で変わりなく言うと、再び歩き出した。 背中を向けているため、その表情は見ることができない。 「さよか」 シゲもそれだけ言うと、不破のあとを追うようにその場を去る。 せめて安らかに―と、その骨の持ち主を小さく思って。 ●●● 乗っていたバスが事故に遭い、崖から転落。 不幸にも窓が開いていたため、不破が窓から投げ出された。 それを見たシゲは考えるより先にたまらず飛び出していた。 落下していく中、不破を抱きしめ、死を本気で覚悟したが、予想以上に枝を伸ばし、何重にも重なっていた木がクッションとなり、軽い怪我ですんだ。 しかし、遭難と言うことになるのだろう、自分たちがどこにいるのかさえ分からない。 携帯はもちろん圏外。他の荷物はバスのカバンの中だ。 事故が判明するのが早くて今日の夜、果たして捜索隊が自分たちを見つけるのは何日かかるだろうか。 こういうときは水を見つけるべきだと不破が言う―水があれば何日かは生きることができる―ので、今まさに探しているところなのだが、見つかる気配はいっこうにない。 もう太陽は、その姿をとっくの昔に隠し、大きな月が輝いている。あと何日かもすれば満月だろう。その光のおかげで、真っ暗、な状況は避けられた。 何も見つからないまま死んでいくのか、それとも落下したときに2人で死んだほうがよかったのか。どちらがよいのかなんていう愚問は問わないことにした。 ●●● 「他のやつらは無事やろか…」 落ちていく目の端で、バスも同じように落ちていくのを見た。 どうやら、自分たちがいる場所より、下のほうに落ちたらしい。ということは、それだけ衝撃も激しいはずだ。 独り言のようなものだったのだが、黙っていた不破が口を開いた。 「そうだな…。あのバスの速度と、崖の大体の高さから、かなりの衝撃だっただろう。無事、な確立は極めて低いな」 さらり、とそう言った。 割れた窓が体に突き刺さったかもしれない。 バスと一緒に潰されたかもしれない。 「無事ではない」乗客を想像して、ぞくり、と嫌な痺れが体を駆け上った。 「怖いのか?」 あまりよろしくない想像をシゲがしていたとき、不破が不意に問いかけてきた。 どうやら考えていたことがなんとなくだろうが、分かってしまったらしい。 今日はもう休もう、ということで2人は木の根元に腰を下ろしている。 水はまだ見つかっていない。 「―え?」 とりあえず、聞こえなかったふりをする。 すると不破は、目を逸らさずこちらをじっと見て、こわいのか、と再度たずねてくる。 怖かった。 このままだと確実に死ぬ。時間が経てばたつほど、その確立は高くなるのだ。 とても、怖かった。 「別に」 しかし、シゲは本音を漏らさなかった。 それがバレているのか、いないのか、シゲの返事には大して気にしていないらしく、 「さとう」 自分を呼ぶ声。ん、と先を促すと、 「おれは、こわいぞ」 シゲの目を見て、不破ははっきりと言った。 いつも強気なその瞳が、今は弱弱しく、揺れていた。 「…不破」 そっと、不破の頬に触れる。それに答えるように、シゲの手の上から不破は自分の手を重ねた。 「まだやりたいことはたくさんある。風祭の笑顔の解明も、サッカーの本質も。…なにより、お前のことも、まだまだわからないことだらけだ。だから…」 死にたくない。 不破はあえてその先は言わなかった。 「ふわ」 その手を引き寄せ、シゲはそのまま不破の体を抱きしめた。 少し肌寒い今の季節、互いの体温が流れてきて暖かかった。 「安心しい。お前だけは、絶対に守ってやるから。だから、怖がらんといていいんや」 そう、不破だけは絶対に死なせない。 シゲは心に誓った。 「さとう」 きゅっと、不破も力を入れて抱き返してくる。 そう、まだこんなにも暖かい。 生きていれば何とかなるかもしれない。 まだ、暖かい。 まだ、生きている。 TO BE CONTENUED... |
お題第3号 すみません、続きます;; 「お題って短いお話が中心じゃないの!?」という苦情はご遠慮ください(笑)あと、いろんな突込みどころも満載ですが、目をつぶってやってください…! この話はHPを開く前からずっと書こうと思っていたものです。 冒頭の部分なんかはめっちゃ分かりやすいと思いますが、元ネタはポルノのあの曲です。 次で終わる…と思うんですが、とりあえず、死にます。確実に死にます。 2004.11.28 BACK |
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